「裸でしゃがみ込み、女性器を手で広げて見せる」シーラ・ナ・ギグ像の謎

「もちろん当時は、シーラは肉欲の邪悪さを描いたもので、警告として教会に掲げられたという説が主流でした。まったくばかげた考えです」

なぜ、ばかげていると？

「ものすごく上にあるんですよ！　いくつかのシーラは、双眼鏡がなければ見えないくらいです」

フライタークはイングランドやアイルランドの各地に足を運び、ある事実に気づいた。

「シーラはもともと、明らかにキリスト教会とは無関係でした。見つかっているのは、もっぱら地方部です。多くの資料が示すように、地元の人は危険をいとわずに聖職者からシーラを守ろうとしました。特に、アイルランドではそうです。この地の神父らはシーラを破壊しようとし、実際に破壊しました。シーラを壁から取り外すよう命ずる司教の布告がいくつも残っています」

シーラが存在する場所を訪れた際に「まず耳にする言葉は常に『豊穣多産』でした」と、フライタークは振り返る。

羊の繁殖期になると、豊かな春を迎えることを願って、農家はいまでもシーラの前に雌羊を連れて行くと話してくれた女性もいる。こうした風習は地方に限られている。農村地帯などでは「命を生み出す力が頼りだった」からだ。

フライタークがみるところ、シーラを理解する上では「共感呪術」という概念がカギになる。事物に接触することで、それが持つ力を授かることができるという考え方だ。

「妊産婦死亡率が非常に高かった中世には、出産をできるだけ速やかなものにするため、外陰部は大きいほうがいいとされていました。出産が長引けば、母子ともに死ぬことになりかねなかったからです」

当時の分娩促進法は「外陰部を緩く、大きくするためのものでした。赤ちゃんがするりと出てくるようにと、ヴァギナにバターを入れたりしたのです」と、フライタークは言う。

ならば、出産のお守りというシーラの位置づけにも納得がいく。

専門家のジャック・ロバーツが率いる「シーラ・ナ・ギグ・プロジェクト」の調査によると、この女性像が圧倒的に多く集中しているのはアイルランドで、100例以上が見つかっている。

ただし、その存在はイングランドやウェールズ、スコットランド、イタリア、フランス、スペイン、ノルウェーでも確認されている。

「シーラの表現は極めて変化に富んでいます」。米アパラチアン州立大学の英語学教授で、2010年にシーラ・ナ・ギグに関する論文を発表したジョージア・ローデスはそう語る。

「ただ一つの解釈しかありえないと考える必要はありません」

ローデスの指摘によれば、シーラと類似する彫刻はほかにもある。たとえば、ギリシャ神話に登場する女性で、性器をむき出した姿で表現されるバウボだ。
「喜びが表現されていることに目を向けてほしいのです」と、ローデスは話す。なかには、明らかにマスターベーションをしていると見えるシーラ像もあるという。

「（イングランド南西部）ウィルトシャーのオークシーにあるシーラは、膝の下まである性器を見せて笑っています。まるで何かを祝っているようで、私としては、女性のセクシュアリティを祝福しているのだと考えたい。この像だけが、同地の教会の装飾なのです」

シーラの多くには、ある共通点が存在する。上半身が年老いていることだ。

フライタークはそこに魅了された。豊穣と多産のシンボルが同時に、死を想起させるのはなぜか。

「生と死は表裏一体。もちろん、それが答えです」

イングランド中西部シュロプシャーの町チャーチ・ストレットンでは、死者の出入り口となる教会の扉の上にシーラがいる。