「東日本大震災」でたまたま上空にいたカメラマン、トラウマになってしまう。「たまたま空にいただけなのにスクープなの？」

2011年3月11日、津波が街をのみこむ衝撃的な映像が中継されていた。
NHKのヘリコプターからそれを撮影していたのは、当時、NHK福島放送局の報道カメラマンだった鉾井喬（ほこい・たかし）さん。
入社1年目、その日がまだ5回目のフライトだった。
当時、鉾井さんが撮影した津波の映像は世界中をかけ巡った。その凄惨な映像を、“歴史的な映像”と称える声もあった。

今も消化できない思いがある。「自分は一番安全な場所にいて、撮影していた…」。
現在は、NHKを離れ、現代アーティストとして福島にもアトリエを構え生きている。
「なぜ自分が撮ってしまったのか」。心に葛藤を抱えながら。

一番安全な場所にいて撮った「スクープ」　今も消えない葛藤

あの日、報道機関で津波の映像を空から中継していたのは、鉾井さんだけだった。映像は「スクープ」として世界中をかけ巡った。
鉾井さんにはあの日、もう一つ忘れられない光景があった。
仙台空港には戻れなくなったため、福島空港に着陸。別のカメラマンと交代し、NHK福島放送局に車で戻っていた時のことだ。
国道4号線は渋滞していて、途中から進めなくなった。
ふと横を見ると、並走する東北自動車道にぼんやりと浮かぶ赤いランプの列があった。

夜が明け、ようやく福島市内に入った時、交差点で、消防車の集団とすれ違う。
そこで初めて、赤いランプが全国各地から沿岸部へと向かう消防隊なのだと知った。
「一刻も早く助け出して欲しい」。上空という安全圏にいた自分が「見下ろしていた」人々。その人たちの無事を、願うことしか出来なかった。

大切な人を失くした人、命をかけて救助に向かう人、そして生き延びた自分。
「たくさんの人が亡くなっている中で、自分は、一番安全な場所にいて、撮影をしただけだ」

映像が数々の賞を受賞するたび、葛藤は大きくなっていった。
また、被災地と東京を行ったり来たりするうち、「安全圏」にいる自分に、違和感が芽生えていった。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/hokoitakashi_jp_60469963c5b6e29350b272b5