【話題】 「生きている実感を」　春から転職2度　再起期すイベントコンパニオン

午前10時、福岡市内のビルにあるコールセンター。

年齢も服装も、前職もばらばらの男女約100人が、始業ぴったりに鳴りだす電話に、
マニュアル通りの第一声を発する。「お電話ありがとうございます」

スリットが深いダメージジーンズ素材のスカートが目を引く梨沙さん（26）＝福岡市、仮名＝の今の職場だ。
前職はイベントコンパニオン。街頭で新発売のお菓子を配ったり、居酒屋で電子たばこをPRしたり。

多い月で25万円を稼いできたけれど、4月の緊急事態宣言で全てキャンセルに。

「仕事も貯金もゼロ。とりあえず、働かないと」。最初の2カ月は、消毒液を生産する工場で時給千円ちょっとの夜勤に入った。

消毒液もマスクも街から消えた混乱期。午後9時から翌朝6時まで、スプレーボトルの検品作業に追われた。
周りには同じ境遇のコンパニオン、営業時間短縮や自主休業に追い込まれた居酒屋やホテルの人ばかり。

「6月には元の仕事に戻れるよ」と声を掛け合った。

「携帯電話を消毒しませんかー」。家電量販店での客引きなどコンパニオン業務が再開し、
6月にいったん「復職」したが、さらなる感染拡大で8月に仕事は再びゼロになった。

「年内はもう仕事はないな」。手元のお金を取り崩して食いつなぐ毎日に不安が膨らみ、今年2度目の「転職活動」。
インターネットで見つけたのは時給1200円のコールセンターだった。1日8時間で、コンパニオンの日給程度は稼げるのが決め手だった。

夕飯の残り物をお弁当に詰め、通うこと4カ月。休憩室でもあまり言葉を交わさない同僚たちは、淡々と仕事をこなす。
従業員の生活を背負えなくなり経営する居酒屋を閉めた人、海外に買い付けに行けなくなった輸入品販売業の人…。

いつになるか分からない再起の日をじっと待つ。

コールセンターは、残業代が10分単位で出るし、休みたい日は確実に休める。
クライアントの理不尽な要求も黙ってのみ込んでいた、ちょっとブラックなコンパニオン時代に比べると「めちゃくちゃホワイト」。
でも、マニュアルに沿った通話を繰り返すだけじゃ、やりがいも生きている実感もない。

コンパニオンには、接する生身の人間の数だけ挑戦と学びがあった。押しに弱いか、押しを嫌うか、瞬時にタイプを見分けてアプローチする第一声を変える。
相手との距離を縮め、心をつかめたときのような達成感は、ずいぶん感じていない。「しんどかったけど楽しんでたんだって、できなくなって気付いた」

貯金は数万円。きょうの夕食は390円のごぼう天うどん。来年は、食べていくための仕事で生活を立て直しつつ、生きがいとなる仕事を少しでも再開したい。

クリスマスのきらびやかな街角で思う。「みんなが、空白だった1年をやり直せますように」。30日までシフトに入る。　
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