- 1 : 2021/06/12(土) 23:14:53.783 ID:B4NvgJE90
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冬
時は大正、鬼たちの暗躍する時代。
背に大きな木箱を担ぐ少年がいた。
寅次郎「…………」テクテクテクテク
- 2 : 2021/06/12(土) 23:16:08.824 ID:B4NvgJE90
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蛸社長「おい、待て小僧。俺に血肉を寄越せ」
寅次郎「た、蛸の鬼だ!」
蛸社長「へっへっへ、観念するんだな」
寅次郎「くそっ……」
- 3 : 2021/06/12(土) 23:17:40.771 ID:B4NvgJE90
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博「そこまでだ!蛸鬼!」
蛸社長「何!?囲まれている!?」
博「やあ!とう!」
キン キン キン キン キン ザシュッ
蛸社長「や、やられたー」バタッ
- 4 : 2021/06/12(土) 23:18:45.728 ID:B4NvgJE90
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寅次郎「ありがとうございます。剣士様」
博「我々は鬼殺隊だ。君、名はなんという?」
寅次郎「竈門寅次郎です」
博「この木箱は何だ?」ガチャ
寅次郎「あっ」
- 5 : 2021/06/12(土) 23:19:36.772 ID:B4NvgJE90
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さくら「ガルルルルルルル」
博「うわあ!鬼だー!」
寅次郎「鬼じゃない!妹のさくらだ!」
- 6 : 2021/06/12(土) 23:20:48.656 ID:B4NvgJE90
-
さくら「ガルルルルルルル」
寅次郎「やめろ!やめるんだ、さくら!」
さくら「ガルルルルルルル」
寅次郎「さあ、はやくこの団子の串を咥えろ」
寅次郎「兄ちゃんが必ず鬼から人に戻してやるから」
寅次郎「それまでの辛抱だ!さくら!さくらー!」
―――
――
― - 7 : 2021/06/12(土) 23:21:57.278 ID:B4NvgJE90
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春
老婆「旅の人、旅の人。起きてください。列車が来ましたよ」
寅さん「うん……」
寅さん「……マンガみたいだったな」
- 8 : 2021/06/12(土) 23:23:07.109 ID:B4NvgJE90
- 9 : 2021/06/12(土) 23:24:09.677 ID:B4NvgJE90
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わたくし生まれも育ちも葛飾柴又です
帝釈天で産湯を使い 姓は車 名は寅次郎
人呼んでフーテンの寅と発します - 10 : 2021/06/12(土) 23:25:13.071 ID:B4NvgJE90
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車寅次郎 渥美清
さくら 倍賞千恵子
竜造 森川信
つね 三崎千恵子
博 前田吟
満男 中村はやと
社長 太宰久雄
源公 佐藤蛾次郎
御前様 笠智衆
どうせおいらはヤクザな兄貴
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前の喜ぶような
偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく
今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる
陽が落ちる - 11 : 2021/06/12(土) 23:26:33.526 ID:B4NvgJE90
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宮内一穂
宮内ひかげ
宮内れんげ
一条蛍
越谷夏海
越谷小鞠
越谷卓
富士宮このみ
加賀山楓ドブに落ちても根のある奴は
いつかは蓮の花と咲く
意地は張っても心の中じゃ
泣いているんだ兄さんは
目方で男が売れるなら
こんな苦労も
こんな苦労もかけまいに
かけまいに - 12 : 2021/06/12(土) 23:27:29.967 ID:B4NvgJE90
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男というものつらいもの
顔で笑って
顔で笑って腹で泣く
腹で泣くとかく西に行きましても東に行きましても
土地土地の御兄さん御姐さんに御厄介かけがちなる若造です
以後見苦しき面体お見知りおかれまして
向後万端ひきたってよろしく
お頼申します - 13 : 2021/06/12(土) 23:29:24.438 ID:B4NvgJE90
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とらや
タコ社長「はー、まいったまいった」
タコ社長「うちのカミさんがこれ(鬼)なんだよ」
おばちゃん「どうしたんだい?自分まで赤い顔しちゃって」
タコ社長「たまには家族サービスでもしろ、どこか連れてけ、ってさ。俺の心が休まらない」
さくら「今日は良い天気ですものね」
博「日曜日は休みで工場も動いてない所が多いからなあ。空が綺麗なんだよ」
タコ社長「博さんには悪いけどね、本音を言えばこっちは日曜だって手でも足でも使って機械回したいくらい」
おいちゃん「それじゃあまるで自転車操業だな」
タコ社長「ほんとほんと、補助輪つけなきゃ倒れちゃう」
- 14 : 2021/06/12(土) 23:30:11.163 ID:B4NvgJE90
-
田舎道
れんげ「……」シャカシャカシャカシャカ
(補助輪付き自転車)
蛍「……」テクテクテクテク
- 15 : 2021/06/12(土) 23:31:35.420 ID:B4NvgJE90
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れんげ「にゃんぱすー」
蛍「おはよう。迎えに来てくれたんだ」
蛍「れんちゃん、ありがとう」
れんげ「ほたるん、今日は明日からの学校に備えて英気を養う日曜日なのん」
蛍「うん。有意義に過ごそう」
れんげ「週に1回しかなくて年に52回もあるん」
蛍「そう言われると少ないか多いか微妙かも」
- 16 : 2021/06/12(土) 23:33:22.403 ID:B4NvgJE90
-
宮内家
蛍「おじゃましまーす」
一穂「蛍ちゃんいらっしゃい」
蛍「先生、おはようございます」
一穂「おや、あの姉妹はいないのかい?」
れんげ「知ったこっちゃないん」
一穂「お、そんな言葉遣いしちゃダメだぞ?」
れんげ「なっつんもこまちゃんも付き合い悪いん。そりゃウチの口も悪くなるん」
蛍「れんちゃん、今日先輩たちの家族、車で市街に出かけるってよ」
れんげ「もー、しょうがないんなー」
一穂「聞き分けは良いんだな」
- 17 : 2021/06/12(土) 23:34:40.989 ID:B4NvgJE90
-
街
夏海「いやー、久々の街角だねー」
小鞠「何よ街角って。街でいいでしょ街で」
夏海「ウチらで角といえば田んぼのカドか牛のツノだよねぇ。あれじゃ本当に道草しか食えないって」
小鞠「ほら余所見しない。お母さんたちもう先に行っちゃったじゃん」
夏海「お、あっちでなんか物売ってる」
小鞠「えー、買わないよ」
夏海「見るだけなら只なんだよ、姉ちゃん」
小鞠「はいはい、わかったわよ」
- 18 : 2021/06/12(土) 23:36:06.691 ID:B4NvgJE90
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夏海「どれどれ」
寅さん「まずこのグラフに注目されたい」
寅さん「厚生省が発表した日本人の身長の、これグラフであります」
寅さん「この赤い字が証明するように、戦後日本人の身長は、外国人と匹敵するくらいどんどんと伸びております」
夏海「ほー、姉ちゃんは何時代だ」
小鞠「こら夏海」
寅さん「しかし、それに反比例して日本人の体力はどんどんどんどん落ちている」
寅さん「これは何故かというと」
寅さん「日本人は、つまり、この下駄を履かなくなったためであります」
- 19 : 2021/06/12(土) 23:38:04.096 ID:B4NvgJE90
-
寅さん「ほら、足の親指と人差し指。ね」
寅さん「この間に人間の健康を司るツボがあります」
寅さん「ここへ鼻緒をぐいっと突っ込んで」
寅さん「ぐいぐいぐいぐい歩きながらここを刺激する」
寅さん「これは日本人の大発明であります」
- 20 : 2021/06/12(土) 23:39:28.311 ID:B4NvgJE90
-
寅さん「俺なんかほら、365日こうして雪駄を履いているから」
寅さん「ただのいっぺんも病気をしたことがない」
寅さん「ただし頭は良くないが。これは親譲りだから仕方がない」
夏海「アハハハハ。面白いなあ」
寅さん「お、笑ったな中学生。退学」
夏海「なっ――」
小鞠「アハハハ、面白い面白い」
寅さん「隣りの小学生を見習いなさい」
ハハハハハ
- 21 : 2021/06/12(土) 23:40:57.336 ID:B4NvgJE90
-
夏海「もう帰ろう」ドヨーン
小鞠「そだね」ガックシ
寅さん「ね。並んだ数字がまず一つ」
寅さん「物の始まりが一ならば」
寅さん「国の始まりが大和の国」
寅さん「島の始まりが淡路島」
寅さん「泥棒の始まりが石川の五右衛門なら」
寅さん「助平の始まりがそちらのお兄さん」
卓「……」
ハハハハハ
- 22 : 2021/06/12(土) 23:43:16.342 ID:B4NvgJE90
-
街の駅
寅さん「……」
(鞄を手に提げて佇む)
列車内
寅さん「……」
ガタンゴトン ガタンゴトン
- 23 : 2021/06/12(土) 23:45:06.146 ID:B4NvgJE90
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とある駅
寅さん「……」スタッ
寅さん「さて、のんびりのどかな片田舎だ」
田舎道
寅さん「……」
トンネル
寅さん「……」
- 24 : 2021/06/12(土) 23:46:20.664 ID:B4NvgJE90
-
駄菓子屋
寅さん「お婆ちゃん、ここらに安宿ありゃしないかい」ガラガラガラ
楓「……いらっしゃいませ」
寅さん「なんだ、しわくちゃの婆さんがやってんじゃねえのか。珍しいな、若いの」
楓「ええ、まあ。誰が売っても駄菓子は駄菓子なんで」
- 25 : 2021/06/12(土) 23:47:54.701 ID:B4NvgJE90
-
寅さん「はぁ~、わかってないねぇ~」
寅さん「結構結構。結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りは糞だらけだ」
(売れ残りの下駄を弄ぶ)
楓「……?!」
- 26 : 2021/06/12(土) 23:50:02.679 ID:B4NvgJE90
-
寅さん「天に軌道のある如く人それぞれに運命というものを持っております。丙午の女は家に不幸をもたらす。未の女は門にも立たすなと云う。そこの若いお方、眉と眉との間に陰りがあります。あなた商売で苦労してるね?」
楓「……ああ」
寅さん「さあ、この下駄をひと蹴りすれば明日の天気がわかるやもしれない。当たるも八卦。当たらぬも八卦。人の運命などというものは誰にもわからない。そこに人生の悩みがあります。けれどもまず下駄を履いて歩き始めない事には、あなたという一生が前進することも、成長することも、決して在りはしないのです。さあ来た!」
寅さん「と、こういう風にやれば下足だって売れるわけよ」
楓「……こりゃ凄いもん見ちまったぜ」
- 27 : 2021/06/12(土) 23:52:20.817 ID:B4NvgJE90
-
昼
一穂「お、もうこんな時間だ」
一穂「君たち、お昼ご飯を食べな」
一穂「今何か用意してあげるから」
蛍「あ、はーい」
れんげ「メニューをどうぞなん」スッ
蛍「ありがとう。レストランごっこだね」ペラ
蛍「……えーっとこれは男の人の写真??」
- 28 : 2021/06/12(土) 23:52:56.147 ID:B4NvgJE90
-
一穂「あー駄目じゃないか、勝手に持ち出して」スッ
蛍「あっ」
一穂「蛍ちゃん、ウチが作る料理だからあまり期待しないでね」
蛍「…はい」
- 29 : 2021/06/12(土) 23:54:04.311 ID:B4NvgJE90
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駄菓子屋
楓「へぇ、じゃあ奥さんと子供を家に残しての旅暮らしだ」
奥の座敷
寅さん「ん?うん、そうそう」ポリポリポリ
(横になって駄菓子を食べている)
楓「まあ何もない村だが、のんびりしていってくれ」
寅さん「あそうだ。俺、宿探してたんだった」スクッ
- 30 : 2021/06/12(土) 23:55:27.376 ID:B4NvgJE90
-
寅さん「こんだけ食ったら今日は素泊まりで十分。どっかねぇかい?」
楓「うちに客用の布団なんてあったかな。レンタルのなら」
寅さん「あーダメダメ、田舎者はすぐ変な噂立てるから」
楓「じゃあえーっと、民宿やってる所があったな」
寅さん「そこ。そこでいい。地図書いてくれ」
楓「うん」
- 31 : 2021/06/12(土) 23:57:34.454 ID:B4NvgJE90
-
夜
一穂「…………」
一穂「よし、今日の教材研究は終わりっと」
一穂「あー疲れたー」
れんげ「……」
一穂「ん。れんちょん起きてたの?トイレ?」
れんげ「ねえねえも別のお家で暮らすん?」
一穂「ウチはどこにも行かないよ。れんちょんは気にしなくていいの」
- 32 : 2021/06/12(土) 23:59:01.361 ID:B4NvgJE90
-
宿
寅さん「……」zzz
- 41 : 2021/06/13(日) 00:13:51.717 ID:qMlIJXDf0
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一穂「……」ポンポンポンポン
(鉄琴でチャイムを鳴らす)
一穂「はい。ではこれで一時間目を終わります」
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