【東京五輪】＜どうしたら歓迎されるか？＞東京都の小池百合子知事は「中止はない」と断言…

　取材を重ねると、実際には水面下でかなりの準備が進められている。国と東京都、組織委員会などで構成する感染対策チームの動きは加速し、相当活発に取り組んでいるという。まだ公表されていない部分が多いが、「感染のリスクに目をつぶってでも強行する」などという乱暴な姿勢ではないようだ。

　20年12月23日には、『開閉会式演出チームの解散と新たな統括担当者』が正式に発表された。狂言師の野村萬斎氏（54）を中心に椎名林檎氏や映画監督・山崎貴氏ら7人で構成されていたチームを解散し、これまでパラリンピックの演出統括だったクリエーティブディレクターの佐々木宏氏（66）が新たな総合統括になった。

　これは、組織委員会が打ち出している「簡素化」実現への大きなのろしようなもの。いよいよ本気で「簡素化」に舵を切り、相当な覚悟で「オリンピックを変えよう」とする組織委員会の姿勢が明確になった証しと理解すべきだろう。

　当初は４時間程度と見られていた開会式を2時間程度に短縮する。参加する選手や演者の数も密を避けるため大幅に減らす。内容も華美な発想から質実な方向性に転換する。そうなれば当然、そうした方向性の演出が得意な人材に変更するのは必然だ。

　見逃してならないのは、こうした「簡素化」を主導し、決断しているのがIOCでなく、東京2020組織委員会だという点だ。これまで、マラソンの札幌移転に象徴されるように、ことごとくIOCの外圧で翻弄されてきた東京2020だが、今や主導権を組織委員会が握り始めている。

　この変化には大きな意味がある。組織委員会は、東京2020の実施を通して、今後のオリンピックの方向性に、ひとつの道筋を見いだそうとしているようにも感じられるのだ。東京が、次のオリンピックの展望を創出できるならば、それは素晴らしいレガシーになるだろう。

●　政財界と離れ、純粋にスポーツとして考えよう

　日本のスポーツ界は、モスクワ五輪ボイコットの苦い経験を教訓として、1991年に「JOC（日本オリンピック委員会）の独立」という画期的な改革を実現した。スポーツ界が政財界の束縛から放たれ、主体的な立場を得たという意味で重要な改革だった。

　ところがその後、JOCは実質的には政財界の傘下に戻り、政治的都合や財界の援助に大きく依存するヒモ付きの存在に戻ってしまった。「パイプ役」としてその橋渡し役を果たしたのが、竹田恒和前会長であり、山下泰裕現会長もその方針を踏襲している。スポーツ界の独立はどこに行ったのか、と批判する声さえ上がらないほど、商業主義的な流れの中で「政財界によるスポーツ支配は当たり前」と見られてもいる。
　
　しかし、今こそ、スポーツが純粋にスポーツの立場に立つべきだろう。コロナ禍の中でどうスポーツができるのか、人々の生活や健康にどう寄与し、貢献できるかを提言し、貢献すべき時だ。スポーツを中心に据えて物事を考え、未来を提示する人間がほとんどいない今の状況は大きな問題だ。これを打開し、真剣にスポーツの立場から問題提起し、議論する動きが必要である。

　 「オリンピックなんて無理だ！」という感情論、不安感が世の中に広まっている。多くの人にとって、当たり前の日常生活さえ制約され、我慢しているのに、なぜオリンピックだけは強行するのか？

　一方で、プロ野球は各球団とも120試合を行い、日本シリーズも開催した。Jリーグは中断したリーグ戦を再開し、終了した。陸上、水泳、体操、レスリング、バドミントンなど、多くの競技の全日本選手権が日程を変更して開催された。いずれも、大きな問題や感染は発生しなかった。体操は海外から選手を迎えて国際親善大会も行った。いまのところ、大きな混乱や感染の報告はない。こうした前向きな事実も、きちんと評価すべきだろう。

　感染が続く中で何ができるのか、どうすればオリンピックが安全にできるのか。社会の知恵とコロナに負けない共通認識を積み重ねることは、安全に「経済を回す」だけでなく、すべての人々が人間らしい日常を取り戻すためにも重要だ。

　また、スポーツに携わる立場から言えば、スポーツ選手が五輪を目指して練習を重ねることは、人々が日常の活動一つひとつを取り戻すことに通じる。

　オリンピックが安全にできることが一つひとつ証明され、積み重なっていけば、それは人々が日々できることの可能性を証明する活動にもなる。オリンピックだけが特例で、特権的に保護されて行うのでなく、オリンピックでできることが人々の日常の安全を証明し、可能性を高めていくと考えたらどうだろうか。

　また、世間では、「アメリカが来ない可能性があるらしい。アメリカ選手の出ないオリンピックなんて」とか、「来日する海外メディアの数だけでも相当な人数らしいよ」といったさまざまな指摘がされている。私はこうした常識的な指摘や失望を聞くたび、まだ発想の転換が足りないと感じる。この機会に、これまでの常識や先入観をすべて白紙に戻し、新しいやり方を模索する機会にする意識に、国民も目覚めることが大切だ。

　もちろんコロナウイルスの感染リスクを軽視してでも東京2020を開催すべきだ、などという主張はありえない。徹底して対策をし、水際作戦を展開し、オリンピック開催によって日本に新たな脅威を持ち込まないことは大前提だ。

　菅首相や小池都知事は相変わらず「コロナウイルスに打ち勝った証しとして」と言い続けているが、これも現実離れし、反感をかき立てていると思う。人類はまだコロナウイルスに打ち勝ってはいないし、先が見えない。課題は、コロナウイルスの感染が続く中で何ができて、どうすれば安全に生活ができるかだ。そうした国民的議論をきちんと重ね、具体的な対策も出し合い、納得し合うことが大前提だ。

　例えば、できる限り海外からの来日者数を抑えるために、「観戦目的の観光客の来日は制限する」「メディアの来日は最小限にする」、もしくは「メディアの来日は原則禁止」とし、リモート取材の環境をできるだけ整備するなどの体制を整えたらよいのではないだろうか。

　商業主義、勝利至上主義にまみれ、本来のスポーツの良さを失いかけていたスポーツ界が、今回、オリンピック開催に取り組むことによって新たな価値に気づき、新しく生まれ変わる大きな転機にできるなら素晴らしい。そのためにも、上意下達ではなく、国民的な議論と合意こそが絶対に大切だ。

　（作家・スポーツライター　小林信也）

ッテ事が露見したナ